【BUYSS labo 01 / Episode 015】
今回からは
真皮縫合が上手くなるためのポイントを解説していきます
所長の講演で毎回出てくる話ですよね〜
・・・コスり倒したネタってヤツですね(笑)
そうとも言う(笑)
ただ、それくらい重要なネタ かつ みんなが知らないネタってことです。
全層一層縫合と真皮縫合の違い
真皮縫合を学ぶにあたって
まずは
全層一層縫合 と 真皮縫合 の違いを理解しておきましょう。
全層一層縫合の創の特長
まず大前提として
縫合糸で絞め込まれた部分については
『血流がない』と考えておいた方が良いです。
駆血帯を巻けばその部分の血流が遮断されるのと同じで
縫合糸によって絞められた範囲組織は虚血に陥った組織と同じ変化をすると考えましょう。
つまり
少なくとも糸のかかっている部分の創面は
『くっつかない』と思っておいた方が良い という事です。
また、全層一層縫合の場合、抜糸する事になるので
抜糸後は、張力(キズを開こうとする力)に対して
抵抗するのは創面の接着性のみ ということになります。
この図で示した創縁(右の青のライン)に対して
全層一層縫合を行うと
糸で絞められた部分は創の接着が遅れ
緑の部分のみに治癒機転が働く という事になります。
また、抜糸後は、その緑の部分が張力に対抗することになります。
したがって
縫えば縫うほど 実は 創の接着性は低下し
キズが治る(きれいになる)のが遅れる結果となります。
真皮縫合の創の特長
一方、真皮縫合はというと・・・
きれいに縫われた真皮縫合の創縁は、わずかに盛り上がっています。
つまり
通常の全層一層縫合に比べて
創縁の接触面積が増えている事になります。
そのため
全層一層縫合に比べて張力に対抗する面積が増え
固定性が高くなっています。
また、全体が糸で絞められている訳ではないので
血流の保たれた部分が存在し
かつ
抜糸されることのない糸で減張が持続するため
張力がかからず血流の存在する 部分が速やかに治癒します
真皮縫合の長所を活かすために求められるもの
真皮縫合の構造的な長所は
- 減張の効果が持続する形で糸が存在する
- 接着面積が大きい
- 張力に対抗できる
という点です。
これらを実現する上で
やらなくてはいけない(やってはいけない)事は
- 充分な量の真皮を拾って真皮縫合をかける
- 脂肪を拾わない
ということが重要になってきます。
糸で絞められた部分は阻血になる という原則から
脂肪を糸で絞めた場合
脂肪はやがて溶けてしまいます。
上の図のように 締め込まれた脂肪が溶けてしまうと
糸の輪の大きさは変わらないのに
輪がかかっている部分の組織量が減る(脂肪が溶けてなくなる)ので
結果として 張力に耐えられなくなってしまいます
ヘボい なんちゃって真皮縫合で
術後数日から1週間程度経った時に 脂肪融解をおこして キズが開く SSI はこのパターンです。
ゼッタイに脂肪を縫い込んではイケません
正しい真皮縫合に必要な運針とは
理想的な真皮縫合をかけて糸を結んだ場合
創縁は少し盛り上がります。
このとき
糸が最も表面に近付いた部分には dimple ができます。
(dimple にならなかったとしても、そこから創縁が盛り上がります)
その状態を展開図にしたのが下のスライド
縫う前の皮膚の状態から考えると
このように ♡型に運針をするイメージになります。。。
でも・・・
丸い針でどうやって♡型に運針するの?
って思いますよね?
ここで重要になってくるのが
左手 です!
- 針の背で脂肪を除ける
- ♡型の運針になるように皮膚の角度を調節する
という一連の動きを左手メインで左右の手を連動させて行います。
この連動には、ちょっとしたコツ(もう一つのポイント)があります。
それについて、引き続いて解説しましょう。
結局 カウンターが全てを支配する
左手の鑷子を使って皮膚の角度を調節する際に
縫い上がりの形状を再現しつつ縫うときれいにイメージ通りかけることができます。
そのためには
皮膚の立ち上がりの部分(★)が一番薄くなるように針が通る必要があるので
その部分の厚さを感じつつ 皮膚がその部分から立ち上がるように
○の部分に指(中指もしくは環指)をあてるときれいに運針出来るようになります。
そう
針の背に対する カウンター をあててやるわけです。
更に
○の部分に指(中指もしくは環指)をあてることで
もう一つの重要なカウンターをかけることができるようになります。
ユルい皮膚を縫うときのテンションコントロールの応用です
真皮縫合が上手くなるために必要な『全層縫合のテンションコントロール』
でやった
↑↑↑ この面作りの応用です。
結局の所
左手の指と鑷子を使って カウンターをしっかりかける
という 手術の基本動作を実践するだけなのです。
実は運針以上に○○が重要
ただ
他科の先生の真皮縫合をみていると
左手のカウンターが今ひとつでも
そこそこの運針ができている事があります
しかし
最終的な結果は 限りなく落第点に近くなっている事が大半です。
それは何故か?
実は
真皮縫合で最も重要なのは
運針もさることながら・・・
結果の7割は 糸結び による
からなのです。
だって 輪っかが緩んでしまっていたら
減張効果も生まれないし、結局 キズは緩んだり開いたりしてしまいますよね?
真皮縫合の正しい糸結びについては
メッチャ長くなるから次回でお願いしますネ 所長!
解説動画
それではココまでの解説と
実際の運針を動画で見てみましょう。
動画では、説明を省いた
キズの対面側の運針と脂肪の除け方
についても解説しています。
コメント
糸結糸結びに関するメールをいただき誠にありがとうございました。
真皮縫合の男結びの件ですが先生がお示しになった写真のようになるには1回目を左側に持針器を回し(内側というのかもしれませんが)長い糸を上方に、短い糸を下方に引っ張り、2回目の糸結びは右側に持針器を回さないと写真のようになりません、この場合、右側に持針器を回し長い糸を下方に短い糸は上方に引っ張ることになるのではないでしょうか。動画だと先生は3回とも左側に持針器を回し長い糸を上方に、短い糸を下方に引っ張っているように見えますので女結びになり糸が緩むのが懸念されますがいかがでしょうか、教えてください。中西皮膚科 中西孝文
動画中、糸結びは第一結紮と第二結紮でslip knot の男結びをしているので緩みません。解説しながらの撮影でしたので、実は第二結紮と第三結紮ではslip knot の女結びになっていますが。
slip knot について詳しくはコチラを参照して下さい。https://www.youtube.com/watch?v=59-IGbEYhgE
女結び・男結び・順目・逆目・square/slip については、コラムや動画でも触れていますが、定義が違えば解説・解釈も変わってきます。あくまでもバイスラボの定義と考え方では男結びが成立しています。