【BUYSS labo 01 / Episode 041】
所長!大変です
所長の『臍のキズ汚ぇんだよ』Tweet がプチバズりました!
いや〜ビックリしたな😁
あんなに反響あるとは。。。
まぁ、外来には結構来ますからね。。。
みんな『主科の先生には ほっとかれた』って言うけど。。。
そうね。形成外科医が一番モヤッとする
原因が改善されず患者が供給され続けるパターンのヤツね。
今回から、しばらく、予定を変更して
『臍』の話しをしよう❗
臍の構造
もともと臍は胎児と母体(胎盤)を繋いでいた臍帯が
出生後に切断され
組織自体が虚血壊死した結果の『瘢痕』です
左右の腹直筋鞘の間(白線)に索状の瘢痕組織が埋まっていて
瘢痕拘縮を生じる際に周囲の緩んだ皮膚が引き込まれていって
凹みができたものです。
通常、緊張の強い腹直筋に挟まれているので
索状の瘢痕部分は『絞められた』状態になり
腹腔内からかかる圧に対抗できるため 中身 が飛び出すことはありません。
腹直筋の力が弱い赤ちゃんでは、時に腹膜前脂肪や腸間膜などが脱出し
『でべそ』になりますが
綿球などで圧迫しているうちに
腹直筋の支えがしっかりしてくると、内容物が飛び出さなくなり
保存的に『でべそ』では無くなることが多いです。
索状瘢痕が広がったり内容物が突出した状態で固定されてしまったのが
いわゆる『でべそ』です。
通常、臍は「引き込まれている」ものなので
体表から臍の「底」の部分は見えることは無く
『陰(かげ)』になっています
この『陰』を作る事で 臍らしい凹み:臍窩 を表現する事が出来ます。
ちなみに
臍窩を引き込んで固定している瘢痕は
見た目上の臍窩の大きさとは一致していなくて
少し細くなっています
こんな感じ。。。
なぜ臍からポートを入れるのか
これには色んな理由があると思いますが
臍窩の直径は大体17mm前後と言われていますから
12mmのポートなら『入れてくれ』と言っているようなものですよね。
更に
臍窩の凹みに沿って切開していけば
切開線が延長されることで穴を拡げやすくもなります。
また、瘢痕組織をたどっていけば腹腔につながりますし
臍窩の切開線の幅で皮下組織を切り進めて行けば
容易にある程度の太さのものが通過する穴を
比較的安全に開けることができます。
切開が臍窩の中にとどまれば
見た目上のキズを表に作っていないという事にもなります。
先ほどの写真にもあったとおり
臍窩は凹みが陰になっているので
『陰に隠れてキズが目立たない』
ってのが最大の『ウリ』な訳です・・・
でも〜
残念ながらケロイドの患者を年に数人見かけます。
【形成外科的一般論】キズが汚くなる理由
その理由を
紐解いていきましょう・・・
キズは必ず収縮する
キズの大原則として
『キズは縮もうとする』ものです。
開いていたキズも 保存的治療で閉じてしまうのは
この 縮もうとする力 によるものです
直線状のキズは
常に長軸方向が短縮する方向に『縮もう』としています。
シワに平行なキズはキレイになりやすい
縦のキズは汚くなりやすい
と言われますが、これには
キズが短縮しやすいかどうか?という事も関係しています。
キズは張力に対抗する
更に 創自体に進展の力が加わると
その張力に対抗するようにキズは余計に収縮しようとします
その結果 繊維が増生し
肥厚性瘢痕やケロイドとなります。
ケロイドがダンベルのような形をしているのは
キズの端に張力がかかった事によるものです
また
関節にかかるキズが汚くなりやすいのも
関節の動きによってキズ自体が色んな方向に引っ張られるからです。
動くキズは汚くなる
ここで
正しく真皮縫合を行うと キズがキレイになるのはナゼか?というと
張力に対抗し創を固定しているから です
関節部のように 動いたり張力に晒されるような部位の閉創では
筋膜にも減張縫合をかけ、充分に創への減張を行い
さらに
真皮縫合も大きく減張が効くようにかける事で
減張とともに創の固定を図っています
しかしながら、かなり減張を効かせた縫合でも
やはり関節部では肥厚性瘢痕になりがちです。
また
縫合によって創面同士のお互いの『位置』が固定されていないと
何らかの力がかかった時に創面同士がズレてしまいます。
そうすると、創治癒が進んでいた部分が再度離開されることとなり
いつまでたってもキレイに「くっつく」ことがありません。
治ってはキズができる をミクロのレベルで繰り返すことで
キズは肥厚してしまいます。
キズ自体が固定されていて動かない
というのも重要な要素です。
挫滅された組織はキレイにならない
形成外科医としてトレーニングを受け始めると
まず最初にたたき込まれるのが
創縁を愛護的に扱え!
ということです。
せっかくキレの良いメスで鋭い創縁を作っても
そこを挫滅してしまっては
縫ったとしても創面の間に「痛んだ組織」が介在してしまいます。
完全に圧迫壊死とならなかったとしても
挫滅された組織が回復するには時間がかかります。
正常な組織の治癒過程と時間差ができ
挫滅された部分だけは「治っていない」状態が続きます
これは本来『面』での接着が起こっていたハズの創面に
『治っていない』点が混在することで
著しく固定性が低下する
事態を招きます。
結果的にキズが汚くなりやすいのは想像できますよね?
更に
創面ではなくても
創縁に近い部分を『圧挫』するような事をすると
その部分が挫滅されるとともに
その部分の皮下血管網も損傷され
周囲の血流を低下させた結果
創全体の治癒を遅らせる可能性があります。
とにかく
扱う皮膚は 挫滅しない
ということを常に心がけなくてはいけません
これらの事を踏まえると
キズを「汚くしない」ためには、最低限 以下の事が必要になります。
- 創は固定されなくてはいけない
- 張力に対抗する状態でなくてはいけない
- 愛護的に扱われなくてはいけない
臍はどうすれば良いのか?
実は汚くなる要素が満載
では、臍の縦切開が抱える問題を考えてみましょう。
臍窩の中で縦切開をした創は臍窩に沿っているので
上の図のようになっています。
この創が、『キズは必ず収縮する』の原則に従うとすれば
その長さは短縮していきます・・・
この時、本来臍窩を固定しているはずの「瘢痕」が
緩くなっていたら どうなるでしょうか??
赤い□で囲まれた部分が 本来はアンカーとなり固定されていましたが
その部分の固定性が無くなれば
自由に収縮した結果
長さは最短距離となり 紫の矢印のように
表面に出てきて 臍窩が浅くなります
更に
元々臍窩の皮膚は 緩いので 縫い合わせたとて
ピッタリくっつくものではありません
お互いを固定し合う力が弱い所に対し・・・
パンツのゴムに引っ張られたり
ベルトが当たったり
横向きになればそちらに引っ張られたりと・・・
お腹の中心、頂上部分にあるが故に
四六時中 色んな力がかかります。。。
あれほど けなげ に頑張って支えてくれていた
元 臍帯の「瘢痕」も
ポートを入れられたせいで緩みきってしまい
元の働きをしてくれません。
臍のポートを入れる際
多くの先生方は ラッププロテクター と E・Z アクセス など
創面保護に気を遣ったデバイスを用いられていると思うのですが
切開の際はどうでしょうか??
こんな感じで
皮膚をペアンやコッヘルで『グシャッ』とつかんで反転させつつ
左右に牽引して切開していませんか?
とある病院の泌尿器科から
『臍をキレイに縫って欲しい』と依頼を受けた際に
このアプローチをしていて卒倒しそうになりました・・・
このような挫滅する操作も
臍の切開部分の創治癒を遅らせて
結果的にキズを汚くしてしまいます。
皮切の際のアプローチとしては
小切開を加えてから
スキンフック(無ければできる限りファインな先の有鈎鑷子)で創を牽引しながら
切開を進めて行く・・・という事をオススメします。
『閉創』の実際は どうなのか?
いままでいくつもの施設、いくつもの診療科で
臍ポートの手術に立ち会ってきましたが
ほとんどの場合
筋膜縫う ⇒ (皮膚全層で縫う) ⇒ 綿球詰める
程度の閉創でした。
気になったので、外科の若手が読むであろう教科書や
手術書、雑誌の特集、論文なども当たってみましたが
やはり閉じ方は詳しく書いてありません。。。
多くは『綿球つっこんでおけ』程度です。
外来にくる 臍ケロイド の患者さんに聞いても
ほぼ 100% この方法で
いつまで綿球を入れておくとかの指示もされていないのが大多数です。
基本は『正しく元に戻す』
綿球突っ込んでおくだけでは
以下の事が実現できる・・・とはならないですよね??
- 創は固定されなくてはいけない
- 張力に対抗する状態でなくてはいけない
- 愛護的に扱われなくてはいけない
これらの要素のうち、愛護的に扱うこと以外は
閉創の仕方と工夫
で実現可能です。
結果として目指すのは
解剖・構造として正常の臍に近い 状態です
具体的には
- 固定される土台となる 筋膜 がタイトに閉じられている
- その筋膜に臍窩が固定されている
ということが再現されている必要があります。
特に 2. が実現されていないと
創が収縮する際に、直線化・短縮化 が起こりケロイドになりやすくなります。
そこで
白線部分(筋膜:腹直筋鞘)を 0-PDS や ナイロンなどでしっかりと寄せた後、
その筋膜と臍窩皮膚とを固定するように
4−0PDS など抗張力が90日以上持続するような糸で
筋膜と真皮をかけるように アンカリング を行います。
アンカリングは固定されている部分を増やし
動きを抑制するために 1針 ではなく 2針(以上)かけます。
臍をキレイに見せる工夫
さらに
より深い臍窩を作り、キレイに見せるためには
しっかりとした陰を作り出す
ということが必要になります。
陰をしっかりと作るには
臍窩の凹みを断崖絶壁に近付ける
という工夫をすると深い臍窩の印象になります。
このように周囲の脂肪の壁で『角』が強調されていると
深い臍窩の印象になります。
断崖絶壁の『角』を作る方法には様々な手法がありますが・・・
比較的再現性が高く手間では無い方法としては
白線(筋膜)を通常よりもきつめに寄せておく ことです
腹直筋鞘をタイトに寄せることで、その上に存在する脂肪層を中央に寄せる効果が生まれます。
さらに臍窩の創の両端の部分(頭側端と尾側端)については
4−0PDS などで真皮縫合を1針ずつかけておくと
dog ear ができることで 上下方向の『角』がつきやすくなります。
またこの部分の真皮縫合を入れる事で創全体の減張にもなります。
綿球よりも強固なクセ付け
単に綿球を詰めておくのが なぜダメなのか?
綿球を詰めるだけでは
臍の凹みに対する「型」にはなっていますが
臍窩が浅くなろうとする力には対抗出来ません
綿球を押しだそう(臍窩が浅くなろう)とする力に対して
抵抗する力が無いために
固定力を発揮できないのです。
そこで
臍窩の底部に向かって絶えず力がかかるように
ボルスター固定 を追加することをオススメします。
臍窩に充填できる大きさにまとめたソフラチュール® に2−0(もしくは3−0)ナイロンを刺通し
更にできる限り臍窩底部より尾側皮膚に刺出したら、臍窩内にソフラチュールを引き込む力をかけつつ
別のロール状にしたソフラチュール上で結紮します。
⇒コレにより尾側の皮膚に糸が食い込むのを防止しつつ臍窩に充填したソフラチュールを底部〜尾側方向に圧迫して臍窩の凹みをクセ付けします。
この圧迫により
創面が固定されることで、創が『動く』ことを抑制できます。
ボルスター固定は10日ほどで外し
別の充填物に変更します。
イヤパティを小さくちぎってまとめたものをオススメしますが
100均に売っているような
手芸用の10ミリ程度のビーズ玉でも構いません
綿球よりも硬さや弾性のあるものの方が効果的に形態を維持出来ます。
瘢痕が柔らかくなる3ヶ月目までぐらいは毎日洗浄しつつ充填することをオススメします。
実際の閉創手順
では実際の閉創手順はというと・・・
- 筋膜上をわずかに剥離(アンカリングしやすくするため)
- 筋膜を強固に閉鎖(0−PDSなど通常使うもので)
- 創の頭側端を 4−0PDSで真皮縫合
- ①臍窩底部頭側のアンカリング(4−0PDSで 筋膜⇒真皮⇒真皮 と拾い untie として把持)
- ②臍窩底部尾側のアンカリング(4−0PDSで 筋膜⇒真皮⇒真皮 と拾い untie として把持)
- 創の尾側端を 4−0PDSで真皮縫合
- ①の糸を結紮
- ②の糸を結紮
- 臍窩の創縁のうち見える部分にズレがあれば 4−0ナイロンなどで縫合を追加
- ボルスター固定
このうち
赤字のものは絶対にやるべき事
青字のものはやることを強く推奨するもの
黒字のものは推奨するものです
【質問やご意見を受けて追記します(2022.2.28)】
ボルスター固定については、個人的には『やった方が良い』派です。
ただ長期間、同じものを詰め続けるという事に違和感や不安もあるかと思います。
「アンカリングされた創底の張力を減じる」という意味では、創部のむくみが引き始める術後4〜5日目に外しても良いかもしれません(結局むくみが取れると緩んでくるので)
不安な場合は数日でも良いですし、最初からきつめに軟膏綿球詰めるでも良いです。
何れにしろ
『瘢痕の硬さが取れてくる3ヶ月目ぐらいまでは圧迫し続ける』
の方が重要です。
留置に不安な場合は、毎日交換でも良いので、創底に向けて『詰め物』をして軽く圧迫固定することを続けてみて下さい。
ボルスター固定については
いずれ 所長がわかりやすく動画作ってくれるハズです❗
4.5 の操作には、ある程度細かなハンドリングが要求されるので
いつも言うように 皮膚縫合に特化した道具(マッカンドー鑷子)を
準備することをオススメします。
・・・・細かめのアドソンでも良いですが。。。僕は嫌いです。
何か今回はスゴく長かったですね💦
何回かに分けようかと思ったんですが
一気に説明しちゃいました。。。
実際のハンドリングなどについては いずれ解説動画を作る予定です。
わかりにくかったり、聞きたいことがあれば
何でも聞いて下さいね。。。コメントやtwitterのDMで。
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